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ナルコレプシーの脳画像研究



近年の神経画像技術の進歩により、核磁気共鳴画像(MRI)技術を応用した機能的MRIを用いることにより、様々な精神疾患、発達障害などの行動特性と脳内の限られた領域の活動性との関連性に関する所見が集積されるようになった。さらに、voxel-based morphometryや拡散テンソル画像解析など技法開発により、従来のMRIでは検出することができない、脳の微細な形態学的変化を捉えることが可能となった。

発達障害の一つである注意欠陥/多動性障害(AD/HD)では、これらの技術を用いて脳内の形態学的異常(例えば、AD/HDでは同年代の健常者と比較して背外側前頭前野、前帯状回、小脳虫部が小さいなど)に関する知見が相次いで報告されている。しかしながら、ナルコレプシーでは、この種の研究報告は数えるほどしか報告されていない。

ナルコレプシーにおける脳の形態学的なエビデンスは少ないが、発表されている論文から前頭皮質や視床下部の灰白質が同年代の健常者よりも小さい可能性がある。

以下に、今までに発表されている論文の成績を時系列で記載した。

○2002年 ドイツのKaufmann先生ら

Voxel-based morphometry(VBM)による予備的な研究報告として発表。
ナルコレプシー患者12名と健常コントロール群におけるVBMの比較により、ナルコレプシーでは両側の下側頭回および下前頭回の皮質灰白質の減少が認められた。
(Neurology 58: 1852-1855, 2002)


○2002年 ドイツのDraganski先生ら

同じくVBM技術を用いて、ナルコレプシーの脳の形態学的相違をNature Medicineに発表。
睡眠障害国際分類(ICSD)でナルコレプシーの診断基準に適合した29名の患者と年齢と性別を合わせた29名の健常者を比較した。その結果、ナルコレプシーでは、両側の視床下部灰白質、右側の側坐核の容積減少、さらには小脳虫部、上側頭回の灰白質の減少が認められた。
(Nat Med 8: 1186-118, 2002)


○2003年 オランダのOvereem先生ら

同じくVBMによる解析だが、脳形態に相違はないという否定的な結果を発表。
HLA-DQB1*0602陽性かつ、脳脊髄液中のヒポクレチン(オレキシン)1が不足しているナルコレプシー患者15名と、年齢・性別を合わせた15名の健常者を比較した。その結果、脳半球の灰白質ならびに白質容積に両群の差は認められず、視床下部の灰白質ならびに白質容積にも差が認められなかった。
(Sleep 26: 44-46, 2003)


○2005年 オーストリアのBrenneis先生ら

VBM解析により、前頭前野に差があることを発表。
ICSDの基準に適合する12名のナルコレプシー患者と、年齢・性別を合わせた12名の健常者を比較しました。その結果、右側前頭前野とfrontomesial cortexにおいて灰白質の有意な減少が認められた。白質には差が認められなかった。
(Sleep Med 6: 531-536, 2005)


○2006年 チェコのBuskova先生ら

従来のMRIプロトコールでは、ナルコレプシー患者の脳の形態に異常を検出することができなかったが、VBM解析で相違を検出したと発表。
19名の情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者と16名の健常者を比較した。その結果、視床下部の灰白質容積がナルコレプシーで小さいことを認めた。
(Neuro Endocrinol Lett 27: 769-772, 2006)


○2008年 韓国のKim先生ら

若年成人のナルコレプシー患者において、灰白質が減少していることを報告
17名の情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者(平均年齢26.6歳)と年齢・性別を合わせた17名の健常者(平均年齢24.6歳)を比較した。その結果、視床下部、前頭前野、辺縁系、などの灰白質が健常者より小さいことを認めた。
(Acta Neurol Scand Jul 1, 2008)


これらの論文を大雑把に比較すると、ナルコレプシーでは視床下部や大脳皮質(特に前頭葉)の灰白質が減少している傾向があるかもしれない。いずれにせよ、被験者であるナルコレプシー患者の病態像がcomorbidityの有無を含めて同じであるか、被験者の中枢刺激薬の投薬履歴の影響はないか、VBM解析方法に差がないか、などの検証が必要と思われる。

しかしながら、このような脳の形態学的な研究は、ナルコレプシーの病態解明や新薬の開発に有用と思われ、今後の研究成果に期待したい。

(2008年7月)
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