ナルコレプシー患者の皮膚温異常と眠気との関係

健常人において、末梢の皮膚温度が近位部の皮膚温度よりも相対的に上昇すると入眠しやすくなることが知られています。近年、健常者を対象とした研究において、睡眠前の皮膚温分布から入眠潜時を予測できることが示され、皮膚温と睡眠傾向(眠りやすさ、sleep propensity)との関係が注目されています。末梢の皮膚温の上昇は皮膚における血流量の増加に起因しており、脳内の視床下部が交感神経性に皮膚血管の緊張度を調節しています。ナルコレプシーでは視床下部の機能変化が特徴的であるため、ナルコレプシー患者の日中の皮膚温変化と睡眠傾向の増加との関係が検討されました。

試験は治療を受けていないナルコレプシー患者15名(男性6名、女性9名)と健常者コントロール15名で実施されました。全ての患者は日中の過度の眠気と情動脱力発作の症状があり、睡眠障害の国際分類(ICSD-2)における脱力発作を伴うナルコレプシーと診断されました。12名の患者は、過去に治療を一度も受けておらず、残りの3名の患者では試験開始の1週間以上前に投薬を中断しました。健常コントロール群は年齢と性別をマッチングさせ、神経性および精神性の疾患がないことを確認しました。

全ての被験者において、試験前日には十分な睡眠を確保させました。日中の遠位部皮膚温、近位部皮膚温、およびその温度差(遠位部・近位部皮膚温勾配、DPG)を睡眠潜時反復検査(MSLT)と同時測定しました。近位部皮膚温は両側大腿部の前部中央付近と腹部で測定し、その平均値を算出しました。遠位部皮膚温は両手の母指球隆起と両側の足の裏中央部で測定し、その平均値を算出しました。

ナルコレプシー群の平均年齢は35.9±2.4歳で、コントロール群の平均年齢は35.9±2.5歳でした。エプワース眠気尺度の点数は、ナルコレプシー群が17.9±0.7で、コントロール群が4.7±0.8でした。全てのナルコレプシー患者のエプワース眠気尺度の得点は病的範囲である12点以上でした。平均睡眠潜時は、ナルコレプシー群はコントロール群よりも有意に短く、それぞれ2.9±0.6分および10.6±0.8分でした。

覚醒時において、ナルコレプシー群ではコントロール群よりも遠位部皮膚温が高く、近位部皮膚温が低いことが認められました。その結果、DPGは常にコントロール群よりもナルコレプシー群で高値でした。皮膚温と睡眠傾向の関係を検討したところ、DPGの上昇とMSLTにおける睡眠潜時の短縮との間に有意性が認められました(p=0.02)。睡眠時において、ナルコレプシー群における遠位部皮膚温とDTGはコントロール群よりも高値を維持しましたが、近位部皮膚温はコントロール値まで上昇しました。

今回の研究成果は、ナルコレプシー患者における日中の皮膚温の劇的な変化を示した最初の報告です。覚醒時でさえも、ナルコレプシー患者ではコントロール群よりもDPGが高値でした。ナルコレプシー患者におけるDTGの変動は、ナルコレプシー患者では交感神経性の遠位部血管収縮緊張度が慢性的に低下していることを示唆するもので、ナルコレプシー患者のオレキシン欠乏がその原因となっている可能性があります。動物実験において、オレキシンでラベルされる神経線維は尾の血管収縮を調節している脳内部位(視索前野、視床下部外側野、中脳水道周囲灰白質など)に分布していることが立証されています。したがって、オレキシンの欠乏が交感神経性の緊張を低下させ、末梢血管の収縮を減弱させているかもしれません。さらなる研究が必要であることは言うまでもありませんが、皮膚温の調節はナルコレプシー症状を改善させるための治療ヒントになるかもしれません。
(Fronczek et al., Altered skin-temperature regulation in narcolepsy relates to sleep propensity. Sleep 2006; 29: 1444-1449)


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