睡眠の最新研究論文
ナルコレプシーにおいて視床下部ー扁桃体経路に代謝性の機能異常が存在する


(背景)
プロトン磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-MRS)を用いると、生体脳において非侵襲的な化学的組織分析をすることが可能です。ナルコレプシーでは視床下部神経細胞の消失やグリオーシスなどの報告がされており、神経統合性のマーカーであるN-acetylaspartate(NAA)やグリア増生のマーカーであり細胞内カルシウムの調節を担うセカンドメッセンジャーであるmyo-inositolの動態が注目されています。

1H-MRSを用いたナルコレプシー研究の1報告では、橋延髄接合部(pontomedullary junction)において代謝異常が認められていません。しかしながら、別の研究論文では、NAA/creatine-phosphocreatine(Cr)比が情動脱発作を伴うナルコレプシー患者の視床下部で減少していることが報告されています。

(目的)
私たちは、ナルコレプシーにおいて特に関心のある脳領域である視床下部、橋延髄接合部および両側の扁桃体における代謝変化を調べるために1H-MRSを用いた研究を実施しました。なぜなら、これらの領域は情動形成、睡眠調節、さらにはナルコレプシーの病態を考える上で重要な部位だからです。

(方法)
研究に参加する被験者はUniversity Hospital Zurichの睡眠外来を受診した患者からリクルートしました。同意の得られた情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者14名(すべてHLA-DQB1*0602陽性)を被験者としました。脳脊髄液中のヒポクレチン濃度を検査した10名すべてにおいてヒポクレチン濃度の欠乏が認められました。年齢、性別およびBody Mass Indexを適合させた14名のコントロール群を設けました。ナルコレプシー群では1H-MRSのスキャニングの少なくとも2週間前から薬物治療を中断しました。

(結果)
NAA/Cr比は、これらの領域においてコントロール群とナルコレプシー群で差がありませんでした。しかしながら、myo-inositol/Cr比はコントロール群と比較してナルコレプシー患者群の右側扁桃体で有意に低下していました(P < 0.042)。ナルコレプシー患者群においてのみ、視床下部NAA/Cr比と右側扁桃体myo-inositol/Cr比(r = -0.89, P < 0.001)、視床下部myo-inositol/Cr比と右側扁桃体NAA/Cr比(r = -63, P < 0.05)、および左側扁桃体myo-inositol/Cr比と橋延髄接合部NAA/Cr比(r = -0.69, P < 0.05)に有意な負の相関性が認められました。

(結論)
今回の所見から、ナルコレプシーの病態に視床下部―扁桃体経路の機能異常が示唆されました。
(Poryazova R et al. Evidence for metabolic hypothalamo-amygdala dysfunction in narcolepsy. Sleep 32: 581-582, 2009)


Copyright © 2006-2009 Kaminsho-Land All Rights Reserved.