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ナルコレプシーの自己抗体の探索:バイオアッセイ系を用いたアプローチ

(背景)
多くの研究報告から、ナルコレプシーは自己免疫疾患である可能性が提唱されています。それを最も強く支持する事実として、ほとんどの情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者ではHLA-DQB1*0602陽性です。しかしながら、膨大な研究がなされているのにもかかわらず T細胞やB細胞反応性の特異抗原が同定されていません。

情動脱力発作を伴うナルコレプシーでは、オレキシン含有神経細胞の脱落が認められていますが、オレキシンやオレキシン受容体に対する自己抗体が見出されていません。

このようなことから、一般的な免疫学手法では、ナルコレプシー患者から自己抗体を同定することができないのかもしれません。受容体やイオンチャネルに結合し、その機能を変容させるような抗体は血漿中に極めて微量しか存在しない可能性が高く、免疫蛍光法や免疫ブロット法では検出できないかもしれません。

最近、糖尿病 I 型患者から平滑筋の L型カルシウムチャネルを活性化させる機能的な自己抗体が動物の摘出標本を用いたアッセイ系で発見されました。そこで、私たちは同様の生理学的なアッセイ系を応用したアプローチを考えました。

(目的)
マウス結腸標本を用いて自発的なcolonic migrating motor complex(CMMC)を指標としたバイオアッセイにて、ナルコレプシー患者の免疫グロブリンのリアルタイム効果を検討しました。

(方法)
情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者でHLA-DR2/DQB1*0602陽性である6名の患者から得た血液からIgGを精製しました。

明期12時間、暗期12時間のサイクルで飼育したBALB/Cマウスを用い、明期開始2時間後に結腸を単離しました。95%O2/5%CO2混合ガスを飽和させたKrebs溶液を浸したバスに結腸を吊るし、60分間安定化させた後に3 force-displacement transducerでCMMCを記録しました。

ナルコレプシー患者から精製したIgGまたは健常者からのIgGをバス内に添加しCMMC活性の変動を測定しました。また、ナルコレプシー患者のIgGと臨床的なIVIg(intravenous immunoglobulin)療法の目的で精製された免疫グロブリンをプレインキュベーションすることにより中和させた後のIgGによるCMMC活性の変動を測定しました。

さらには、IVIgを結合させたF(ab’)2カラムで患者IgGを処理した後のフラクションによるCMMC活性の変動を測定しました。

(結果)
ナルコレプシー患者から精製したIgGの添加によりCMMC活性は著しく減退し、標本によっては完全に消失しました。健常者のIgGの添加では、CMMC活性に変化はありませんでした。ナルコレプシー患者IgGによるCMMC活性の抑制に続いて、静止張力(resting tension)の増加の増加が認められました。興味深いことに評価した5標本のうち3標本において、静止張力の増大と一致して自発的相動性収縮(phasic contraction)が出現しました。アトロピンの添加により、この相動性収縮は抑制されました。

患者IgGをIVIg用の免疫グロブリンとプレインキュベーションすることによりCMMCの活性低下に対して保護効果が認められました。患者IgGを牛血清アルブミンとプレインキュベーションした場合は、保護効果がありませんでした。   

患者IgGをIVIg F(ab’)2カラムを通したフラクションでは、CMMC活性が抑制されませんでした。一方、シャムカラムに通した場合は、CMMC活性が抑制されました。   

(考察および結論)
ナルコレプシーが自己免疫疾患であることを証明するためには、特定の神経部位に対する特異的な自己抗体を同定する必要があります。本研究では、ex vivoによるバイオアッセイ手法を用いナルコレプシー患者の自己抗体の存在を見出すことを試みました。

その結果、情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者から得たIgGは顕著にCMMC活性を抑制することが明らかとなりました。IVIgと反応させることにより、CMMC活性の抑制が減弱することは、臨床的に免疫グロブリン静脈内注射がナルコレプシー患者の情動脱力発作を軽減させるという最近の報告を支持するものです。

今回の所見から、情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者には自己抗体が存在することが強く示唆されましたが、自己抗体がナルコレプシーの単なるマーカーにすぎないのか、病態の直接的な原因として関与しているのかの疑問は未解決のままです。

しかしながら、CMMC活性を指標としたバイオアッセイは、ナルコレプシーの自己抗体探索研究において新たな方向性を示したといえるでしょう。
  (Jackson MW, et al.: An autoantibody in narcolepsy disrupts colonic migrating motor complexes. J neurosci 28: 13303-13309, 2008)



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