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モダフィニルは覚醒状態のバロメーターであるP13電位の振幅を増大させ、その効果はgap junctionアンタゴニストで遮断される

(背景)
網様体賦活系(reticular activating system)に含まれる様々なニューロンにおいて電気的共役(electrical coupled)が存在することが2007年に発見されました。すなわち、スライス標本を用いた実験で、PPNのGABA作働性ニューロン、網様賦活系のコリン作働性ニューロンにおいて電気的共役の存在が確認されました。

モダフィニルは、アメリカにおいてナルコレプシーに伴う日中の過度の眠気、閉塞性睡眠時無呼吸(注:日本未承認)、交代勤務性睡眠障害(注:日本未承認)の治療薬として承認されています。

最近、モダフィニルは視床網様核ならびに下オリーブ核の皮質介在ニューロン間における電気的共役を増大させるという報告が発表されました(Urbano et al., PNAS 2007)。

私たちは、モダフィニルが活動電位と関係なく網様体賦活系における電気的共役を増大させ、その効果がGap Junctionのアンタゴニストであるcarbenoxoloneあるいはmefloquineによって拮抗されることを実証しました(Garcia-Rill et al., Sleep 2007)。

無麻酔無拘束下のラットにおける音刺激誘発で頭頂で記録されるP13電位は、覚醒時とREM睡眠時に認められ、徐波睡眠時には認められないことが知られています。さらには、P13電位はPPNニューロンの活動パターンを反映していると考えられています。このP13電位はコリン作働性に対するアンタゴニストであるスコポラミンによって遮断されるほかに、麻酔薬やアルコールのような覚醒レベルを低下させる薬剤や物質によっても遮断されます。

(目的)
モダフィニルを無麻酔無拘束状態のラットPPNへ注入することにより、P13電位の振幅が増大するかどうか、増大した場合にgap junctionアンタゴニストがその効果を遮断するのかどうかについて検討を行いました。

(方法)
ケタミン(60 mg/kg, im)とxylazine(20 mg/kg, ip)による麻酔下の雄性SDラットを脳定位固定装置で固定し、P13電位測定用のscrewを頭頂に、対照用のscrewを前頭洞に、両側性に装着しました。

さらに、モダフィニル注入用のカニューレをPPNへ両側性に挿入しました。

術後から1週間の回復期間を置き、実験に使用しました。過去の実験において、拘束ストレスがP13電位に影響を与えたことから、無拘束下での実験としました。

聴覚誘発P13電位の測定は、チャンバー内の隅々まで音が拡散する工夫を凝らした装置を用い、刺激音として99.9Hzのクリック音を採用しました。脳波と筋電図をモニターし完全な覚醒状態時に音刺激誘発P13電位を記録しました。

(結果)
モダフィニル(100µM, 200µM,および300µM)をPPNへ局所注入すると、用量依存的にP13電位の振幅が増大しました。モダフィニル100µMでは注入から35分後に有意な振幅増大(55%以上の増加)が認められ、300µMでは10分後から有意な増大を示し測定した55分後までその効果が持続していました。増大のピークは注入後25-45分でした。

このモダフィニルによる増大反応は、Gap junctionアンタゴニストであるcabenoxoloneおよびmefloquineで遮断されました。

(考察)
モダフィニルをPPNへ注入することにより、用量依存的なP13電位の振幅増大が認められ、そのピークは注入から25-45分後に認められました。また、この効果はgap junctionアンタゴニストで遮断されました。これらのことから、モダフィニルの覚醒促進作用の少なくとも一部はPPN領域への直接作用を介しており、gap junctionの電気的共役の増大が関与していることが示唆されました。

これまでの多くの研究において、P13電位は覚醒レベルに依存していることが明らかに実証されており、その起源は網様体賦活系であること考えられています。今回の実験ではモダフィニルをPPNへ注入し頭頂のP13電位を測定しているため、P13電位の変化はPPNの活動性の変化を反映していると考えられます。

モダフィニルの作用機序を検討した多くの研究成績において、モダフィニルはグルタミン酸作働性神経系、ノルアドレナリン作働性神経系、ヒスタミン作働性神経系の伝達を促進し、GABA作働性神経系の伝達を抑制することが報告されています。これらを考慮すると、モダフィニルがgap junctionを開口させることによりニューロン間の電気的共役を増大し、GABA作働性ニューロンの抵抗を減少させ、そのアウトプットが弱まり他の神経系が脱抑制するという仮説を提唱することができます。

注目すべき点として、モダフィニルの注入から最大効果が発現するまでにタイムラグがあることです。モダフィニルの作用はプロテインキナーゼなどを介するgap junctionのリン酸化を介しているかもしれません。

(結論)
今回の実験所見から、モダフィニルのPPNへの注入は覚醒状態に依存するP13電位の振幅を増大させました。その効果は、gap junctionアンタゴニストで遮断されました。これらのことから、モダフィニルはgap junctionを介して覚醒レベルを高めているのかもしれません。別の言い方をすれば、gap junctionは覚醒レベルの調節に重要であり、睡眠と覚醒のメカニズムを検討するのに考慮すべきシステムと思われます。
  (Beck P, et al.: Modafinil increases arousal determined by P13 poteintial amplitude: An effect blocked by gap junction antagonists. Sleep 12: 1647-1654, 2008)



この論文に対するSiegel博士(カリフォルニア大学精神科)のコメント

モダフィニルはナルコレプシーの治療薬として幅広く使用されている薬ですが、その作用機序は十分に解明されていません。モダフィニルはオレキシンノックアウトマウスにおいても覚醒促進作用を示すことから、オレキシン神経系がモダフィニルの作用発現に必須ではありません。

今回のBeckらの報告は、モダフィニルがニューロン間のgap junctionを開くことにより効果を発揮するという新しい機序を示唆させるものです。古典的な神経伝達の概念では、神経終末から神経伝達物質が放出され、後シナプスの受容体が活性化し、イオンチャネルを開いたり、プロテインを活性化させたりして伝達を受け継ぐというものです。

しかしながら、近年になって、脳のニューロンの一部では電気的共役の存在が認められ、ニューロン同士がgap junctionを介してお互いに接合していることが判明しました。神経伝達物質を介した伝達は一方向性ですが、gap junctionを介した伝達は双方向性です。

Gap junctionはPPNのGABA作働性ニューロン同士での存在が認められており、コリン作働性ニューロンを含む神経核にも認められています。これらのコリン作働性ニューロンは脳幹を介したREM睡眠の調節や視床への投射を介した皮質EEGに関与しています。

P13電位はPPNやコリン作働性ニューロンを含む脳幹によって生成されています。Beckらは、PPNへモダフィニルを直接注入させることによりこの波形が増大することを見出しました。さらには、この作用はgap junctionアンタゴニストで遮断されることを示しました。

Gap junctionはニューロン間の膜分極をより早いスピードで行うことができます。このgap junctionで結合したニューロン同士の膜分極の同調が生じると活動電位の発生が起こりにくくなります。なぜなら、そのネットワーク内の電気的抵抗が減少するのでオームの法則に従えば活動電位のトリガーとなる電位を得るためにはより多くの電流が必要となるのです。

今回の報告は、モダフィニルの覚醒作用機序に新たな仮説を与えるものです。モダフィニルによって引き起こされるPPNのGABA作動性ニューロン同士の電気的共役が増大することにより、GABAニューロンの活動性が低下し隣接するコリン作働性ニューロンがGABA作働性ニューロンによる抑制から解放される(脱抑制される)という仮説です。

今回のBeckらの報告は、モノアミントランスポーターや受容体を介したモダフィニルの作用の可能性を否定するものではなく、新しい一つの可能性を提唱するものです。

さらには、モダフィニル以外の覚醒状態を変化させる薬剤がgap junctionへどのような作用を示すのかにも興味が湧いてきます。

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