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中国漢民族における閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)とセロトニン・トランスポーター遺伝子多型の関連性研究

(背景)
神経伝達物質の一つであるセロトニンは、概日リズムや呼吸調節に関与しています。薬理学的あるいは神経行動学的な多くの研究所見から、OSASの病因にセロトニン神経系の関与が指摘されています。OSASの家族研究所見からOSASの発症には遺伝子の関与も考えられていますが、その詳細は解明されていません。

セロトニン・トランスポーターはセロトニン神経系の活性調節に重要な働きを担っており、その遺伝子の多型性研究が進んでいます。

(目的)
OSASの病因を解明する一環として、OSASとセロトニン・トランスポーター遺伝子多型との関連性を調べることを目的としました。

(方法)
中国の多施設による共同研究として、OSASを有する漢民族を対象とした試験をデザインしました。終夜睡眠ポリグラフィーを用いOSASと診断された254名(男性220名、女性34名)ならびに338名(男性291名、女性47名)の健常者を被験者としました。

被験者の年齢、BMI、教育レベル、エプワース眠気尺度(ESS)、90項目の症状チェックによる重症度(the general severity index of the Symptom Checklist-90, GSI of SCL-90)、記憶力や実行機能(Wechsler Memory Scale, WMSとWechsler Adult Intelligent Scale, WAIS)を調べました。

すべての被験者を対象に、朝の起床時に採血を行い、血漿5-HT濃度と5-HIAA濃度を測定しました。また、血液から抽出したゲノムDNAを用いて、セロトニン・トランスポーター遺伝子の多型である5-HTTLPR(転写開始よりおよそ1kb上流のプロモーター領域における多型)とSTin2.VNTR(イントロン2における16-17bpの塩基配列が異なる回数で繰り返す多型)の遺伝子型の同定を行いました。

(結果)
OSAS群と健常コントロール群の背景因子の比較では、年齢、BMI、教育レベル、および WAISに有意な差がありませんでした。

しかしながら、両群において、ESS(16.04±5.52 vs 4.35±3.62, p=0.014)、GSI of SCL-90(0.91±0.42 vs 0.26±0.11, p=0.011)、WMS(86.46±13.51 vs 101.9±14.78, p=0.002)の測定値に有意な差を認めました。また、両群の血漿中5-HT濃度と5-HIAA濃度を比較すると、OSA群の方が健常コントロール群よりも有意に高値でした。

全被験者を対象とした遺伝子多型解析から、OSAS群と健常コントロール群において、5-HTLPRのアレル頻度分布と遺伝子型に有意な差はありませんでした。一方、両群において、STin2.VNTRのアレル頻度分布と遺伝子型に有意な差を認めました。すなわち、OSAS群のほうが12回よりも10回繰り返し配列のアレル頻度が高く、遺伝子型では10/10、10/12の%が高く、12/12の%が低いことが判明しました。

男性被験者に限って解析を行うと、5-HTLPRのアレル頻度分布と遺伝子型においても両群に有意な差が認められました。すなわち、OSAS群の方が、ロング型(L)のアレル頻度が高く、遺伝子型ではLLとSLの%が高く、SSの%が低いことが分かりました。

両群におけるハプロタイプ頻度(S-10, S-12, L-10, L-12)を解析すると有意な差が認められました。91名の男性OSAS患者を対象として、様々な評価項目をハプロタイプで比較検討したところ、85名がL-10ノンキャリアでありL-10キャリアは6名しか含まれていませんでした。

S-12をキャリアとする51名とS-12をノンキャリアとする40名にて各評価項目の比較をすると、S-12をノンキャリアとする群の方がS-12キャリア群よりも、AHI(63.23±20.30回/時間 vs 48.56±19,43回/時間, p=0.02)、血漿5-HT濃度(185.47±29.10 ng/mL vs 143.64±21.33 ng/mL, p<0.001)、血漿5-HIAA濃度(197.57±39.07 ng/mL vs 161.07±32.16 ng/mL, p<0.001)が有意に高く、その一方でWMSによるエピソード記憶のスコア(3.09±1.70 vs 10.39±2.62, p=0.008)が有意に低いことが示されました。

(結論)
本研究の所見から、セロトニン・トランスポーター遺伝多型である5-HTTLPRのアレルLとSTin2.VNTRのアレル10はOSASに対する罹患感受性因子である可能性が示唆されました。また、男性でその影響が強いことも示唆されました。
  (Yue W, et al.: Association study of serotonin tranporter gene polymorphisms with obstractive sleep apnea syndrome in Chinese Han population. Sleep 11: 1535-1541, 2008)



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