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閉塞性睡眠時無呼吸における脳内の構造的変化

(背景と目的)
閉塞性睡眠時無呼吸では、治療を行っても認知や感情面の問題が伴いやすく、脳内で何らかの変化が生じている可能性が考えられていますが、通常のMRI検査では脳内の損傷を示す所見は見出されていません。 

しかしながら、機能的MRI技術を用いると、認知、実行機能、感情などに関する領域(例えば、前帯状回、海馬、前頭皮質など)や自律神経系の出力調節に関係する領域(例えば、脳幹、小脳など)の活動の変容が認められます。

閉塞性睡眠時無呼吸患者で見られる自律神経系、認知系、感情系の障害の一部は、これらの関連領域へ投射する神経線維のダメージが影響しているかもしれません。睡眠時呼吸障害では、虚血性、低酸素性、あるいは炎症性の因子が神経線維に悪影響を与えている可能性が考えられます。

近年、拡散テンソル画像解析(Diffusion Tensor Imaging analysis、DTI)という技術が開発されました。この方法を用いると、神経線維のより微細な相違を検出することが可能です。

私たちは、閉塞性睡眠時無呼吸では軸索に有意な障害が起こると仮定し、拡散テンソル画像解析にて神経線維の形態的な微細変化を健常コントロールと比較検討しました。

(方法)
未治療の閉塞性睡眠時無呼吸患者41名(平均年齢46.3 ± 8.9、男性34名、女性7名)と健常コントロール69名(平均年齢47.5 ± 8.79、男性44名、女性25名)を被験者としました。患者の無呼吸‐低呼吸指数は15から101(平均と標準偏差は35.7 ± 18.1回/時間)でした。

各被験者の脳全体の拡散テンソル画像シリーズを撮影し、再編後、拡散テンソルを各ボクセルごとに計算しました。拡散テンソルから得られたfractional anisotropy (FA)で、脳全体のFA地図を作成し、ボクセルベースの統計手法を用いて閉塞性睡眠時無呼吸群と健常者群との間の相違をFA地図から算出しました。 

(結果)
閉塞性睡眠時無呼吸群では、前脳梁、前帯状回、後帯状回、帯状束、脳弓右柱、前頭皮質の一部、腹側前頭前野の一部、頭頂皮質の一部、島皮質の一部、両側の内包、左側大脳脚、中小脳脚、皮質脊髄路および深部小脳核の神経線維を含む白質に相当するFA値が健常者群よりも低いことが判明しました。

(結論)
拡散テンソル画像解析を用いることにより、閉塞性睡眠時無呼吸患者では、脳内の神経線維の統合性が失われていることが明らかとなりました。これらの変化は、辺縁系、橋、前頭皮質、小脳などの重要な領域にリンクしている軸索に認められました。このような多領域に認められたダメージは、低酸素、酸化ストレス、慢性的炎症反応、小血管の異常、局所的な虚血などが関与している可能性があります。病気の時間経過と脳内ダメージの関連性に関する研究が必要ですが、将来的には、閉塞性睡眠時無呼吸の治療として、神経保護的な治療介入が考慮されるべきかもしれません。
(Macey P M et al. Brain structural changes in obstructuve sleep apnea. Sleep 31: 967-977, 2008)


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