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成熟ラットのレム睡眠を妨げると海馬における神経新生が抑制される

(背景)
成人の海馬歯状回顆粒細胞下層には前駆細胞が存在しています。成熟後の海馬歯状回における神経新生は、鳥類や人を含む哺乳類で確認されています。前駆細胞の増殖、遊走、分化のプロセスは、様々な要因により実験的に影響を受けることが知られており、ストレスは増殖に対して抑制的に作用することが報告されています。本研究グループは、成熟ラットを96時間断眠をさせると海馬歯状回の神経新生が抑えられることを既に報告しています。

(目的)
ノンレム睡眠とレム睡眠のどちらがこの神経新生に影響を与えるのかを調べるために、成熟ラットを用いて選択的にレム睡眠を4日間妨げることによる神経新生への影響が検討されました。

(方法)
SD系雄性ラット(300-320g)を用い、脳波と筋電図を測定するための装置を外科的に取り付けました。術後7日間の回復期を経て、踏み車を設置した特殊なケージの踏み車の上にラットを移動させました。自由に餌と水を与え、この環境に馴らすために数日間飼育後、実験を開始しました。この実験ケージは、レム睡眠を検出すると自動的に踏み車が動くように設定されており、レム睡眠が始まると覚醒しステップの移動を余儀なくされます。

この方法により、選択的にレム睡眠を妨げた群を REMD (REM Sleep Deprivation) 群としました。このREMD群のレム睡眠を感知し踏み車が動くタイミングに同調して、覚醒―睡眠サイクルに関係なし踏み車を動かしたラットを YC (Yoked-Control) 群としました。また、踏み台を動かさない群を CC (Cage Control) 群としました。4日間の試験終了後に、DNA合成のマーカーである5-ブロモ-2'-デオキシ-ウリジンと内因性の増殖マーカーであるKi-67を腹腔内投与しました。

(結果)
24時間あたりの総レム睡眠時間の割合は、CC群で平均 9.1%、REMD群で平均 1.3%、YC群で平均 6.1%であり、REMD群において顕著なレム睡眠の減少を認めました。また、総ノンレム睡眠時間は、CC群で平均 42.8%、REMD群で平均 35.4%、YC群で平均 37.9%であり、大差がありませんでした。海馬歯状回の細胞増殖を比較すると、REMD群ではYC群よりも63%、CC群よりも82%の抑制が認められました。REMD群、YC群、CC群の細胞増殖とレム睡眠時間は有意に相関していました(r=0.84、P<0.001)。REMD群の細胞増殖の減少は、内因性の増殖マーカーであるKi-67陽性細胞の数でも同様の所見が認められました。このREMD群における細胞増殖の減少は、神経細胞(顆粒細胞)の増殖抑制によることが確認されました。

(結論)
今回の研究からの所見は、レム睡眠に関連したプロセスが、成熟ラットの海馬歯状回における顆粒細胞の増殖を促進させているという仮説を支持するものでした。 
(Guzman-Marin R et al. Rapid eye movement sleep deprivation contributes to reduction of neurogenesis in the hippocampal dentate gyrus of the adult rat. Sleep 31:167-175 , 2008)


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