情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者のユーモア刺激の処理過程中に視床下部と扁桃体の異常活性が認められる

(研究背景)
情動脱力発作は生理的なREM睡眠にみられる無緊張(atonia)が覚醒中に不適切に生じることによって説明されています。この仮説は電気生理と臨床所見から支持されており、REM睡眠中および情動脱力発作中のいずれにおいても筋反射消失とH反射の減弱が認められています。REM睡眠中の筋肉の緊張消失は延髄から抹消へ投射する脊髄α-運動ニューロンの抑制によるものです。情動脱力発作とREM睡眠による筋緊張の消失は、いずれも共通の下行性橋―延髄―脊髄投射路を介していますが、その引き金となるメカニズムは異なっていると考えられています。情動脱力発作は大笑いなどをした時に起こりやすいことが知られていますが、このような感情が引き金となってどのような機序で脊髄α-運動ニューロンの抑制が生じるのかについては、解明されていません。

(研究目的)
ナルコレプシーの病態解明において、MRIやPETを用いた多くの画像研究が報告されていますが、一貫した所見が得られていません。本研究では臨床所見をベースとして計画されました。すなわち、ポジティブな感情表現のときに情動脱力発作が生じる機序を解明する目的で、事象関連機能的 MRI (event-related functional MRI)を用いた健常者との比較研究が実施されました。

(研究方法)
12名の情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者と年齢、性別、BMIをマッチングさせた12名の健常人を被験者としました。日中の眠気の程度の評価にはエプワース眠気尺度(ESS)を用いました。ナルコレプシーの評価は、Ullanlinna Narcolepsy ScaleとSwiss Narcolepsy Scaleを用いました。情動脱力発作の評価には、Stanford Cataplexy Scaleを用いました。

100枚のノーマル写真とそれに対応するユーモア写真を用意しました。(注:原著にはノーマル写真として羊の放牧風景と、それに対応するユーモア写真として犬が手前の羊を跳び箱代りに人間が飛んでいるような格好でジャンプしているCG加工写真が掲載されています。)これら100対の写真を順次に用いて、最初にノーマル写真を3秒間提示し、0.3秒のブランクをおいて対応するノーマル写真もしくはユーモア写真を3秒間提示します。そのあとに2秒間で今の写真が面白かったどうかについて4段階で回答します。特にユーモア性を強く感じる写真を選択するために、本試験とは異なる被験者で事前に評価を行い、39対の写真を本試験用として選択しました。

ユーモアを感じている時の脳内の神経活動をfMRIにて評価解析しました。

(研究結果)
ナルコレプシー群では12名中11名がHLA DQBI*0602陽性で1名がDR2陽性でした。8名のナルコレプシー患者で脳脊髄液中のオレキシン(ヒポクレチン)濃度を測定したところ、6名が検出限界以下で、残り2名は正常値よりも低値であり、測定した全被験者においてオレキシン値の著明な低下が認められました。

写真が面白いと感じたときのfMRIにおいて、ナルコレプシー群ではコントロール群と比較して扁桃体の活動性が有意に増加していました。その一方で、ナルコレプシー群ではコントロール群と比較して視床下部の反応が有意に低いことが示されました。

(考察と結論)
今回の研究結果から、視床下部のオレキシン神経は生理的な機能として扁桃体への感情刺激の入力過程を調節しており、オレキシン神経の機能低下を生じているナルコレプシーでは、ポジティブな感情刺激が入力されたときに、視床下部と扁桃体の相互作用が正常に機能できずに扁桃体の活性化が増強されることが示唆されました。
(Schwartz S et al.:Abnormal activity in hypothalamus and amygdala humour processing in human narcolepsy with cataplexy. Brain, Dec 19 online, 2007)


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