睡眠不足症候群は臨床的に重視すべき過眠症である

(研究背景)
現代人の睡眠は、50年前と比較しておよそ1時間短縮しており、慢性的な睡眠不足を抱えている人が増加しています。社会構造の複雑化は、日本人の多くの労働者にとって十分な夜間睡眠をとることを困難なものにしています。日本の雇用者において、男性の7.2%、女性の13.3%が日中に過度の眠気(EDS)を感じているという報告があります。これらの人々のなかには、睡眠負債の蓄積によるケースが少なくありません。近年制定された睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)では睡眠(行動)習慣によって引き起こされた睡眠不足症候群(BIISS)という疾患が過眠症に分類されています。しかしながら、日本における疫学研究のデータは十分ではありません。

(研究目的)
本研究の主要目的は、日本におけるBIISSの罹患率を推定することと、それによるEDSと事故やその危険性との関連性を調べることです。さらには、BIISSの臨床的な特徴を調べることにより、鑑別診断において有用な情報を得ることです。

(研究方法)
2003年5月から2004年4月に当睡眠センターにEDSを主訴とした外来患者1,243名を調査対象とし、後ろ向き研究を実施しました。診断には、問診、睡眠ポリグラフ、反復睡眠潜時検査(MSLT)、睡眠日誌、治療経過などを診断材料としICSD-2におけるBIISSの診断基準を用いました。他疾患との鑑別診断に関しては複数の医師によって慎重に行いました。EDSの程度はエプワース眠気尺度(ESS)にて評価し、さらには、過去5年以内の交通事故、産業事故、危うく事故を起こしそうになった経験などの調査を行いました。

(研究結果)
調査対象1,243名のなかで88名がBIISS(7.1%)と診断されました。BIISS患者の男性と女性の比率は、7対3で男性に多いことが判明しました。平均年齢は30.2歳と比較的若く、およそ90%が職についていました。平日の平均睡眠時間は5.5±0.8時間で、週末の平均睡眠時間は7.9±1.6時間でした。ESSの平均得点は13.6±3.4でした。

調査から遡った過去5年間に、BIISS患者の22.1%が仕事中あるいは車の運転中に眠気により少なくとも1回以上の事故あるいはニアミスを起こしていたことが判明しました。また、これらの群では、事故を経験していない群よりもESSの得点が有意に高いことが示されました。

調査対象1,243名の診断内訳の上位は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(34.7%)、特発性過眠症(10.9%)、ナルコレプシー(8.8%)、BIISS(7.1%)、概日リズム性睡眠障害(6.1%)でした。

この罹患率上位疾患の臨床的な特徴を比較すると、平日の平均睡眠時間が最も低いのはBIISSで、休日の平均睡眠時間が最も長いのもBIISSでした。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の初回受診時の平均年齢がおよそ45歳と最も高く,BMI値は他疾患よりも有意に大きいことが示されました。初診時のESSが最も高得点なのはナルコレプシーでした。

(結論)
今回の調査結果から、BIISSで悩んでいる人が無視できないほど大多数存在し、症状が重度の場合には事故を起こす危険性が非常に高いことが示されました。今回の調査結果は、BIISSの鑑別診断において有用な情報となり得るものでした。
(Komada Y et al., Clinical significance and correlates of behaviorally induced insufficient sleep syndrome. Sleep Med Nov 2 online, 2007)


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