ナルコレプシー患者の白血球に差次的に発現している遺伝子の同定

(背景)
ナルコレプシーの発症原因の一つとして免疫学的な異常が考えられており、情動脱力発作を伴うナルコレプシーとヒトの白血球抗原(HLA)であるDRB1*1501/DQB1*0602との間には密接な関連性があるとされています。しかしながら、ナルコレプシーの病態生理とどのように関連しているのか明らかになっていません。その一方で、炎症性サイトカインとナルコレプシーの関連性について、いくつかの報告があります。例えば、TNFαのサブタイプやインターロイキン(IL)6の量が健常人と比較してナルコレプシー患者で高いという報告、TNFα遺伝子プロモーターにおける一つの塩基の多型あるいはTNF受容体2の遺伝子とナルコレプシーの間に有意な関連性があるという報告、血清中のTNF受容体のひとつである可溶性TNF受容体p75の血漿濃度が情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者で増加しているという報告などがあります。さらには近年、炎症に関連した因子であるC-reactive protein量が、オレキシン1が欠乏しているナルコレプシー患者の血清で増加していることも認められています。

(研究目的)
この研究では、白血球中のナルコレプシーの生物学的マーカーを同定する目的で、情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の白血球に特異的に発現している遺伝子をアニーリングコントロールプライマー を用いたディファレンシャルディスプレイ法によって同定することを試みました。

(研究デザイン)
12名の情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者と年齢と性別をマッチングさせた12名の健常者からのRNAをそれぞれプールしました。プールされたサンプルはアニーリングコントロールプライマーを用いたディファレンシャルディスプレイ解析によってナルコレプシーの候補遺伝子のスクリーニングを行いました。セカンドスクリーニングとして、遺伝子に特異的なプライマーを用いた半定量的PCRを行いました。候補遺伝子の発現量を新しいサンプル(情動脱力発作を伴うナルコレプシー20名および健常者20名からプール)を用いて定量的リアルタイムPCRによって確認しました。

(研究結果)
セカンドスクリーニングで4個の候補遺伝子の差次的な発現を認めました。それらの中のMX2遺伝子は定量的リアルタイムPCRによってナルコレプシー患者の白血球における発現が有意に少ない遺伝子として確認されました。

(結論)
MX2遺伝子は健常者と比較してナルコレプシー患者の白血球における発現が有意に少ないことを認めました。この遺伝子は免疫系と関連しています。アニーリングコントロールプライマー技術を用いたディファレンシャルディスプレイ解析では、睡眠‐覚醒の調節不全の原因となっている機能的な作用機序を解明することができませんが、HLA分子のようなナルコレプシーと関連している新規の遺伝ファクターを同定するのに有用でした。MX2遺伝子とナルコレプシーの病態生理との間の機能的な関連性の探索研究が今後必要と思われます。
(Tanaka S, Honda Y and Honda M: Identification of differentially expressed genes in blood cells of narcolepsy. Sleep 30: 974-979, 2007)


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