香港ナルコレプシー患者の第一度近親者における発症リスクとHLA型

ナルコレプシーの発症因子の一つとして遺伝の関与が考えられています。今までに報告されている研究結果を参照すると、ナルコレプシー患者の第一度近親者がナルコレプシーに罹患する可能性は0.43〜14.04%です。これは、一般人口における罹患率の10〜280倍も高率です。しかしながら、ナルコレプシー患者の第一度近親者を調べた研究のほとんどは、患者や家族に対する問診や質問表によるもので、睡眠ポリグラフや反復睡眠潜時検査などの客観的な測定手段で検証されていません。そこで今回、客観的な測定方法を用いて、香港在住中国人ナルコレプシー患者の家族性研究が実施されました。

12名のナルコレプシー患者がプロバンドとして選ばれました。ナルコレプシーの診断はICSD-2に従いました(情動脱力発作を伴うナルコレプシーが7名、情動脱力発作を伴わないナルコレプシーが5名)。この12名のプロバンドの平均罹患期間は11.5年でした。この12家族の12名のプロバンドの第一度近親者は55名生存しており、そのうち香港に在住していない8名、予定が合わず参加を辞退した13名を除く34名が試験に参加しました。その内訳は、両親が11名、兄弟・姉妹が10名、子供が13名でした。また、比較検討のために、健常者30名をコントロール群としてリクルートしました。

プロバンド群、その第一度近親者群、コントロール群、すべてにおいて、終夜睡眠ポリグラフ、それに続く反復睡眠潜時検査、臨床的問診、中国版Ullanlinna ナルコレプシー評価スケール(CUNS: Chinese version of Ullanlinna Narcolepsy Scale)、エプワース眠気尺度(ESS)、睡眠習慣に関する自己報告、およびHLA検査のための採血を課しました。

(ナルコレプシー・スペクトラム障害の基準設定)
ナルコレプシーの診断はICSD-2に従いましたが、過去の研究や臨床経験から、ナルコレプシー患者の家族ではICSD-2の基準に当てはまらない幅広い表現型の睡眠異常を呈するケースが示唆されていたので、ナルコレプシー・スペクトラム障害(narcolepsy spectrum disorder)の付加的な基準を設定しました。                  

ナルコレプシー・スペクトラム障害の基準
(1) 平均睡眠潜時が8分より長く、入眠時レム睡眠期(SOREMP)が2回以上
(2) 平均睡眠潜時が8分以下で、SOREMPが1回
(3) 平均睡眠潜時が8分以下で、SOREMPが0回
上記(1)〜(3)のいずれかに該当する。なお、ナルコレプシー・スペクトラム障害の過眠は、他の睡眠障害、概日リズム、身体疾患、精神疾患、投薬、物質乱用などで説明できない。

12家族のプロバンドの第一度近親者34名中1名(2.9%)が情動脱量発作を伴うナルコレプシーと診断されました。香港におけるナルコレプシー罹患率0.034%と比較すると、非常に高い罹患率(85.3倍)でした。第一度近親者群とコントロール群のナルコレプシー・スペクトラム障害の罹患率は、それぞれ29.4%(10/34)および6.7%(2/30)であり、そのオッズ比は5.8(95%CI: 1.2-29.3)でした。第一度近親者群とコントロール群において、SOREMPが2回以上であった人の割合はそれぞれ8.8%および0%でした。ESSとCUNSによる評価では、ナルコレプシー・スペクトラム障害とそうでない人の平均値に差がありませんでした。

12名すべてのナルコレプシープロバンドはDQB1*0602陽性でした。ナルコレプシー・スペクトラム障害の基準に当てはまった第一度近親者10名のDQB1*0602陽性率は100%でした。同様のコントロール群2名はいずれも陰性でした。

今回の研究から、ナルコレプシー患者の第一度近親者におけるナルコレプシーやナルコレプシー・スペクトラム障害の罹患率が一般集団と比較して高率であることが判明しました。ナルコレプシー・スペクトラム障害ではDQB1*0602陽性率が100%であり、ナルコレプシー患者の家族における危険因子のひとつであることが示唆されました。主観的な評価法であるESSやCUNSにおいて、ナルコレプシー・スペクトラム障害を検出することができなかったことから、今後の家族性研究においては、客観的な測定法を用いることの重要性が示唆されました。今回の試験は12家族により小規模スケールであったことから、今後より大規模な試験による研究が望まれます。
(Chen L et al., The familial risk and HLA susceptibility among narcolepsy patients in Hong Kong Chinese. Sleep 2007; 30: 851-858)

(用語解説)

プロバンド(proband):
特定の疾患に対して家族内の遺伝の研究をする際のスターティングポイントに設定する人物のことを指す。(遺伝の研究で用いられる用語)

第一度近親者(first-degree relative):
遺伝子を1/2共有している者、すなわち親、子、一卵性双生児を除く兄弟姉妹を指す。(遺伝の研究で用いられる用語)

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