目次に戻る 次へ進む

体内時計という言葉を聞いたことがありますか?別名で生物時計とも呼ばれるものです。我々は朝に起きて夜眠るという生活を送っていますが、このような生活リズムをつくる仕組みが体の中にあるのです。ですから、この時計が狂ってしまうと、朝起きられない夜型の生活になったり、逆に夜がだめで早く就寝し日の出前に起きる朝型の生活になったりするのです。




体内時計は人間に特有のものではありません。大腸菌のような下等な生物も時計を持っています。ですから、体内時計は地球上に生命が誕生した初期のころから備わった機能で、生物の進化とともに種特有の時計を持つようになったものと思われます。



弱肉強食の世界で生き抜く知恵(生態)を獲得した生物だけが絶滅することなく進化を続けて現在の地球上に存在しているのです。
ネズミは外敵から身を守るために夜活動する夜行性という性質を獲得しました。セミなどのある種の昆虫は、日没前に地中から幼虫がでてきて木にのぼり、暗くなると羽化が始まり日の出時刻には空を飛べるようになります。羽化の最中には逃げることができないので最も外敵に襲われやすいのです。セミの体内時計は最も外敵に襲われにくい時間に地上に出て羽化しなさいと教えているのです。




我々の場合、普段の生活の中で体内時計の存在を意識することがありませんが、この時計によって様々なホルモンの分泌に日内変動が生じ、時刻によって体の働きに異なる影響を与えているのです。体内時計に沿った一日のリズムの変化を簡便に知る方法は体温を測ることです。体温は早朝に最低となり、午後から夕方にかけて最高となります。ただし、体表面の温度は気温の影響を受けるので、直腸か口内で体温を測る必要があります。徹夜したときなどは、夜中の2時から3時頃に強烈な睡魔が襲ってきても、明け方になると頭がスッキリしてきて眠気が消失することがよくあります。この現象は体内時計の働きにより、明け方に生体リズムが睡眠相から覚醒相に変化することにより起こるのです。




人間を外界と完全遮断し時間の情報が何一つない中で生活をさせ、体内時計の研究を行った報告があります。この実験において、参加者は時間を知るすべをもたないのにおよそ25時間の周期で生活を続けました。その後、より厳密なコントロール下での実験報告が1999年にアメリカの研究者グループから発表になりました。それによれば、人間の体内時計は平均でおよそ24時間10分でした。いずれにしても、人の体内時計は24時間より若干長いことになります。体内時計はこの誤差を朝の光で調節し1日を24時間として認識し、生体内リズムを刻んでいるのです。




  
体内時計の仕組みは、ショウジョウバエやマウスを用いた実験によって1998年頃から一気に解明が進み、現在ではその全容がほぼわかるようになりました。時計に関与する複数の遺伝子がその発現をお互いに調節しあうことで、およそ24時間の周期で規則正しく時を刻んでいたのです。この体内時計は脳の中の視交叉上核(しこうさじょうかく)という所に存在します。難しい名前ですが目から入った視覚情報を脳へ伝える視神経交叉のすぐ上に位置します。すなわち、朝起きた時に目から入る光の刺激が視交叉上核に伝わり、体内時計のずれを調節するのです。

このことは、睡眠問題で悩んでいる人にとって、科学的な根拠がある有用な情報となるのです。朝起きるのが苦手で昼過ぎまで寝ている人は、朝の光刺激が入らないので体内時計のずれを調節することができません。夜遅くまでネオンや蛍光灯の光を浴びているとその光の刺激によって体内時計がさらにずれてしまいます。このような生活をしていると、体内時計が狂ってしまい、ますます朝に起きられなくなってしまうのです。この体内時計のずれが不登校の原因のひとつになっていることもあるのです。体内時計の仕組みからみて、朝に太陽の光を浴びることは規則正しい生活を送るためにとても重要なことなのです。




規則正しい生活を送ろうと努力しても極端な朝型あるいは夜型の生活になってしまう人がいます。このような人の中には、生体時計が何らかの理由で遅れたり、あるいは進んだりしていることがあります。これらは医学的な観点から、症状により睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群と呼ばれ、本人の努力で治すことが難しい場合に睡眠障害の専門病院への受診が必要となります。さらには、交代勤務、看護婦、宿直、長距離運転手、タクシー運転手、消防員、警備員、24時間営業コンビニエンスストア、夜営業の飲食店など、夜間に仕事をする人が急増しています。このような人には睡眠の問題を抱えている人が少なくありません。生体時計に逆らう生活をしているわけですから、様々な睡眠問題が生じるのは当然ともいえます。近年、交代勤務型睡眠障害という病気が注目されつつあり、社会的な問題としての認識が高まりつつあります。日中の過度の眠気などにより生活に支障がある場合には、睡眠障害の専門医へ早めに受診すべきでしょう。

Copyright © 2006 Kaminsho-Land All Rights Reserved.