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人間の理想的な睡眠時間を正確に算出することはできませんが、動物種によって1日の睡眠時間は異なっており人間の場合はおよそ8時間といわれています。野生動物とは異なり人間は複雑に発達した社会の中で生活をしていますから、規則正しく十分な睡眠を取ることが難しいものです。何らかの理由で普段より少ない時間しか眠ることができなかった場合には、その不足分が翌日の睡眠に蓄積されるのです。このように蓄積された睡眠不足のことを睡眠負債といいます。負債と呼ぶのには意味があり、いつかその負債を返済しないといけないのです。




(A男さんの例)
A男さんが必要な睡眠時間は毎日およそ7時間です。平日は平均で6時間しか睡眠時間を確保できないので月曜日から金曜日までに5時間分の睡眠負債が蓄積しています。休日の土曜日と日曜日は普段より2時間30分長く寝るので、A男さんの睡眠負債はゼロにリセットされます。しかしながら、多くの人はA男さんのように週末で1週間分の睡眠負債を返済することは難しいかもしれません。B男さんの例を見てみましょう。



(B男さんの例)


B男さんが必要な睡眠時間も毎日およそ7時間です。通勤に片道2時間かかり残業も多いので平日は平均で5時間しか眠ることができません。しかも、休日は家族サービスでゆっくり休んでいることができません。B男さんの場合は月曜日から金曜日までに10時間分の睡眠負債が蓄積していますが、土日の睡眠時間が9時間なので平日に蓄積された睡眠負債を完全に返済することができず6時間分が翌週に持ち越されます。仮に休日にゆっくりできたとしても負債を完全に返済するためには、土日でそれぞれ12時間(1日に必要な7時間分 + 10時間の不足分を土日に分配した5時間分)の睡眠をとらないとならないことになります。しかしながら、体内時計による覚醒作用で目が覚めてしまい実際には12時間も寝ることはできません。結局のところ、慢性的に睡眠負債を抱えることになってしまいます。




睡眠負債が蓄積すると絶えず疲労感が持続したり、日中に耐え難い眠気が生じたりします。その結果、学業や仕事に影響がでるだけでなく、マイクロスリープ(微小睡眠)を誘発し大きな事故を起こす危険性が増大するのです。睡眠負債は借金の利子のように絶えず蓄積し続けるものではありませんが、最低2週間分の負債までは脳(体)が覚えているのです。健康的な生活のためには、日々のライフサイクルの中で上手に睡眠時間を確保することが大切です。


睡眠負債とアルコールの関係も重要であることがわかってきました。過度な睡眠負債を抱えていると少量のアルコール摂取で普段以上の眠気が生じるのです。アルコールに強いと自覚している人がこの程度の飲酒であれば大丈夫だろうと車を運転してしまうのかもしれませんが、睡眠負債を抱えた酒気帯び運転は非常に危険なのです。もちろん、睡眠負債がなくても飲酒運転が禁物なのは言うまでもありません。


  
できる限り睡眠負債を増やさないようなライフスタイルを維持することが大切ですが、交代勤務者など十分な規則正しい睡眠を確保することができない人が多いのが現実です。チェルノブイリの原子力発電所の大事故やスペースシャトルのディスカバリー爆発事故などは、その後の原因究明において作業労働者の過度の睡眠不足(睡眠負債)が原因であることが明らかにされています。モダフィニルなどの薬剤が睡眠負債を増やすことなく日中の眠気を解消させることが報告されており、今後の動向が注目されています。

近年、新幹線の運転士の居眠り事故で睡眠時無呼吸症候群が話題となりました。睡眠時無呼吸症候群のような疾患では、睡眠時間を確保できてもその睡眠の質が悪いために過度の睡眠負債を抱えてしまいます。いびきがひどく、常に疲労感と眠気がある場合は、この病気を疑ってみる必要があります。詳細は、過眠症の睡眠時無呼吸症候群をご覧ください。
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