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機_正された「睡眠指針」


7 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。

・子どもには規則正しい生活が本当に大切か?

 思春期になると、子どもたちは夜更かしをするようになる。思春期から青年期にかけては睡眠時間帯が遅れやすい時期だが、さらに通学時間の延長などにより、こうした傾向が促進される。就寝時刻が遅いと、その後の体重増加が関係する。また、日本人の中学生・高校生を対象にした研究では、就寝時刻が遅い人ほど、メンタルヘルスの所見を有する割合が多い。さらに、思春期の睡眠に関する研究では、一定しない睡眠-覚醒リズムおよび就寝時刻や起床時刻が遅いことが学業成績の低さと関係している。

・休日に遅くまで寝床で過ごすと夜型化を促進する?

 10歳代の学生では、平日と比べて休日には起床時刻が2〜3時間程度遅くなることが各国の観察研究で示されている。これは平日における睡眠の不足を解消する意味があるが、一方で体内時計のリズムを後退させるため、休日後の登校日の覚醒・起床を困難にさせる。土日を模しての2日にわたって就床時刻を1.5時間遅らせ、起床時刻を3時間遅らせた生活をすると、体内時計が45分遅れる。

・朝目が覚めたら日光を取り入れるのは大事?

 健康成人を対象にした観察研究では、起床後、太陽の光を浴び、体内時計のリズムがリセットされてから 15〜16 時間後に眠気が出現する。光による体内時計のリセットが毎朝起床直後に行われないと、その夜に寝つくことのできる時刻が少しずつ遅れる。通常室内の明るさは太陽光の10分の 1 以下であり、曇りの日であっても屋外では室内の5倍以上の明るさとなっている。このため、体内時計を同調させるためには、屋外の太陽光を用いることが効果的と考えられている。

・夜更かしは睡眠に悪影響する?

 現代の日本では、中学生、高校生の間にも携帯電話が広く普及しており、日本の中学生と高校生を対象にした研究では、就床後に携帯電話を会話やメールのために使用する頻度が多い人ほど、睡眠の問題を抱えている割合が高い。




8 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。

・日中の眠気と睡眠不足の関係は?

 成人男性の平均的な睡眠時間は6時間から8時間といわれているが、必要な睡眠時間 は年齢とともに変化し、個人によっても大きく異なる。睡眠不足では、昼過ぎ以外の時間帯でも強い眠気におそわれる場合には睡眠不足の可能性がある。日本人の勤労者を対象とした研究では、睡眠時間が6時間を下回ると日中に過度の眠気を感じる労働者が多くなることが示されている。

・睡眠不足だと本当に仕事の能率が下がる?

 睡眠不足は,疲労や心身の健康リスクを上げるだけでなく、作業能率を低下させ、生産性の低下、事故やヒューマンエラーの危険性を高める可能性がある。健康成人を対象にした研究では、人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後12〜13時間が限界であり、起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率、起床後17時間を過ぎると飲酒運転と同じ作業能率まで低下する。
 なお、睡眠時間を確保する際には勤務形態の違いも考慮する必要がある。個人レベルの工夫だけでなく、職場の特性や様態に合わせた勤務スケジュールの設計など、労働者の適切な睡眠時間確保のための、職場ぐるみの取り組みも大切である。

・睡眠不足だと回復時間も遅くなる?

 健康成人を対象にした研究では、6〜7日間睡眠不足が続くと、その後3日間、十分な睡眠時間を確保しても、日中の作業能率は十分に回復しないとされている。
 日本では、平日の睡眠不足を補うために、週末に睡眠をまとめてとる「寝だめ」をする人がいる。「寝だめ」は作業効率の改善のためにはある程度有効だが、これらの結果は、睡眠不足が続いて蓄積されると不十分であることを示している。また、週末の過度の寝すぎは逆に夜間の睡眠を妨げ、月曜日や火曜日の日中の眠気や疲労につながる可能性がある。

・午後の短い昼寝は有効か?

 仕事や生活上の都合で、夜間に必要な睡眠時間を確保できなかった場合には、昼間の仮眠がその後の覚醒レベルを上げ作業能率の改善を図ることに役立つ可能性がある。ただし、必要以上に長く寝すぎると目覚めの悪さ(睡眠慣性)が生じるため、30分以内の仮眠が望ましい。




9 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。

・寝床での過ごし方は熟睡感に影響する?

 健康な人の生理的な睡眠時間は一定の範囲内にあるが、長時間就床させて生活をさせた研究では、逆に寝つくまでの時間が延長し、中途覚醒の時間や回数が増加することが示されている。9時間以上寝床にいる人は、9時間未満の人と比べて中途覚醒を起こす割合が高い。このように、必要以上に長い時間、寝床に就くことは、中途覚醒が出現し、熟睡感が損なわれ、不眠につながる。

・年齢に応じた睡眠時間が大事?

 脳波を用いて客観的に調べると、夜間に実際に眠ることのできる時間(正味の睡眠時間) は加齢とともに短くなるのに対して、実生活では年齢が高くなるほど寝床に就いている時間は延びている。ただし、必要以上に長い時間、寝床に就いていると、中途覚醒が出現し、熟眠感が損なわれ、不眠を呈しやすくなることが指摘されている。
 寝床に就いている時間は生理的な睡眠時間を大きく超えないことが重要である。正味 睡眠時間は加齢の影響を受け、45歳では約6.5時間、65歳以上になると6時間程度と短くなる。日中に過剰な眠気がなければ、その人が必要な睡眠時間は足りていると考えられることから、 就床時刻と起床時刻を調節し、上手に睡眠スケジュールを設計することが重要である。

・適度な運動の睡眠への影響は?

 十分に日常生活の活動度が確保され、また、大きな病気がない日本人高齢者を対象にした研究では、週に5日以上の身体活動が不眠の発生を抑制することが示されている。つまり、定期的な運動は睡眠によい影響を及ぼす。ただし、強い運動をすると寝つけなくなることも考えられるため、日常生活の中で体を動かすことや、定期的に運動を行うことが重要である。




10 眠くなってからふとんにはいり、起きる時刻は遅らせない。

・就床時刻と眠気の関係は?

 眠りたくても眠れない人の多くは、不適切な睡眠習慣や睡眠環境、睡眠に対する誤った信念や理解により、かえって自らの不眠を悪化させている 。不眠症に対する認知行動療法は、こうした睡眠に対する不適切な知識や行動を修正することを目的とした心理療法であり、様々な患者比較対照研究で高い有効性が示されている。
 眠れない人の多くは、望ましい睡眠時間を確保するために、目覚めなければいけない時刻から逆算して寝床に就く時刻を早めに設定しがち。しかし、通常就寝する2〜3時間前の時間帯は一日の中で最も寝つきにくい時間帯であり、日によって寝つける時刻は季節や日中の身体活動量などにより変化するため、このような就床時刻の決め方は、寝床の中で眠れない状況につながる。起床時刻のみ定め、眠気が出始めるまで寝床に就かないように、思考や行動パターンを改めることに焦点を絞った簡易認知行動療法が主観的な睡眠健康満足度の向上に有効である。

・眠ろうとする意気込むほど寝つきが悪くなる?

 眠るための不適切な努力や眠りに対する不安・恐れは、寝つきを悪化させ、不眠を習慣化させる素地となる。適切な環境が整っていれば、眠りは自然に訪れる。眠ろうとする意気込みや「眠れないのではないか」という不安は脳の覚醒を促進し、自然な入眠を遠ざける。
 眠ろうとする意気込みは、「眠れないのではないか」という不安とそれによって生じる悪い結果(翌日の遅刻や体調不良、学業・仕事の失敗など)を繰り返し想像させる結果となり、 寝つきを悪くする可能性がある。

・眠りが浅いときは、遅寝・早起きが有効?

 眠りが浅く、夜間に何度も目覚めてしまう場合には、必要な睡眠時間よりも長く寝床で過ごしている可能性がある。8週間かけて、寝床にいる時間を短くする必要性を学習した不眠症患者では、その後、睡眠の改善(総睡眠時間の増加、入眠潜時の減少、中途覚醒時間の減少、睡眠効率の増加)が認められ、この効果は36週間持続する。
 睡眠ポリグラフ検査を用いた研究でも、寝床で過ごす時間を減らすことは、総睡眠時間の増加、入眠潜時の減少、睡眠効率の増加、中途覚醒の減少をもたらす可能性があることが示唆されている。




11 いつもと違う睡眠には、要注意。

・睡眠中の激しいいびき、手足のむずむず感や歯ぎしりって、よくないの?

 いびきの背景には、睡眠時無呼吸症候群など睡眠に関する病気が存在している可能性がある。睡眠時無呼吸は様々な生活習慣病の原因になり、欧米人や日本人を対象にした研究では、睡眠時無呼吸がある人では高血圧、糖尿病、脳梗塞、循環器疾患を発症する危険性が高い。
 また、レストレスレッグス群(むずむず脚症候群)の有病率は、加齢とともに高くなる。また、睡眠時周期性四肢運動で運動の回数が増え、覚醒反応が頻繁に起こり、睡眠の質が悪くなり、熟睡感の欠如や昼間の眠気が起こる状態だと周期性四肢運動障害といわれる。合併した場合、寝つきが悪い、眠りが浅い、何度も目が覚めるうえに再入眠し難いということで、熟睡感を得ることができず、強い不眠と昼間の眠気をもたらす。
 欧米や日本における研究では、睡眠時ブラキシズムでは異常に強い力が発生することから、睡眠時ブラキシズムの人は、歯の咬耗、楔状 欠損や歯周組織の破壊などのほか顎関節の異常や頭痛を呈することが多い。また、睡眠時ブラキシズムの人では、いびき、睡眠時無呼吸、不眠などがあることも多く、さらに、睡眠中の歯ぎしりが起こっている時の血圧が増加する。

・日中の眠気や居眠りでも専門家に相談すべき?

 うつ病では、早朝に目が覚めたり、熟睡感がなかったりなどの特徴的な不眠を示すことが指摘されている。こうした特徴的な睡眠障害を初期のうちに発見し適切に治療することは、うつ病の悪化を予防することにつながる。夜間に十分に睡眠時間が確保されていても日中の眠気や居眠りで困っている場合には、ナルコレプシーなどの過眠症を有する可能性もあるため、医師を受診し適切な検査を受け、対策をたてることが大切だ。
 夜間に十分な時間眠っているにもかかわらず、日中の眠気が強い場合には過眠症が疑われる。過眠症には、ナルコレプシー、特発性過眠症などのように睡眠覚醒機構の機能異常により生じる一次性の過眠症と、交代性勤務障害や睡眠相後退症候群などのように睡眠覚醒リズムを調節する機能の異常により生じる概日リズム睡眠障害、薬剤の副作用あるいは 睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害、むずむず脚症候群による夜間睡眠の質的悪化により日中の眠気が出現する続発性の過眠症がある。
 日中の過度の眠気は、直接的かつ短期的に健康を害する場合は少ないものの、長期的には仕事や学業に支障を生じ、重大な労働災害や交通事故の危険因子にもなるため、早期に専門家に相談する必要がある。




12 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

・専門家への相談で解消される?

 夜眠れないことはつらく、知識があっても一人で解決できず、助けが必要なことも多い。このような場合、苦しみをわかってもらうだけでも気持ちが楽になることがある。さらに適切な知識に基づいた睡眠習慣についての助言を実際に受けることできれば睡眠障害やそれに伴う精神的な苦痛の改善が期待できる。よく眠れない、日中眠たくて仕方ないなどの自覚症状は、「からだやこころの病」のサインである場合がある。まずは、寝つけない、熟睡感がない、充分眠っても日中の眠気が強いことが続くなど睡眠に問題が生じて日中の生活に好ましくない影響があると感じた時は、できる限り早めに医師、歯科医師、保健師、薬剤師など身近な専門家に相談することが大切である。

・薬剤は専門家の指示で使用すべき?

 薬物治療を受ける場合には、医師に指示された用法や用量を守ることや、薬剤師の服薬指導を受けて使用することが、薬物治療の基本である。指示よりも多い量の薬剤を飲むことがよくないことはもちろん、飲む量を減らす場合や飲むことをやめる場合にも、医師や薬剤師に相談する必要がある。薬に慎重なことは悪いことではないが、急に減らしたり、中断したりすると、かえって睡眠が不安定となり、不眠の悪化につながることもある。 また、睡眠薬に期待しすぎることも禁物だ。体が眠る態勢になっていない時間帯に眠ろうとして睡眠薬を飲んでも寝つくことはできず、ふらつきや記憶力の抜けなど好ましくない作用が出ることがある 。
 薬を飲む前でも飲んでいる最中でも、疑問や不安があれば、率直に医師や薬剤師に相談することが大切である。睡眠薬を飲み始めてから、気になる症状が出た場合には、 副作用も考えられることから、医師や薬剤師に相談することが必要である。
 薬はお酒と一緒に飲んではならない。睡眠薬とお酒を同時に飲むと、記憶障害を起こして、飲んだ後のことを思い出せない、意識がもうろうとして知らないうちに変わった行動をとる、激しい脱力やふらつくといった状態が起こる可能性がある。







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