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●あなたは朝型か夜型か●

若年層の睡眠・覚醒に関しては、「朝型か、夜型か」といったことがいろいろなところで話題になる。「私は朝型だから、早起きだし、朝一番が最も調子がいい」とか「僕は夜型だから、早起きは苦手だけれど、徹夜しても大丈夫だ」といった話題だ。とくに、子ども、若い世代の場合は夜型のため朝すっきり起きることができずに遅刻が増えたり、試験勉強や受験期には「ふだんは夜型でも、徐々に朝型の生活リズムを整えましょう」とアドバイスされたり、修学旅行や合宿時などに「僕は夜型だけど、皆と同じように寝られるだろうか」と不安になったりすることもある。




このような朝型夜型の睡眠のタイプは、「クロノタイプ」と呼ばれる。個人が1日の間で示す活動の時間的な指向性(日周指向性・参照1)のことである。子どもでも、朝早起きできる子とできない子がいて、早起きできる子は日中の早い時間帯に活動のピークが訪れて、夜は活動の疲れもあって比較的早く就寝する。それに対し、早起きできない子は、学校にも遅刻ぎみで、午前中の授業は眠そうな顔をして、夕方から夜にかけて、ちょうど塾通いの時間帯に元気になる傾向がある。

このクロノタイプについては、高校生、大学生など少し大人になってくると、「低血圧だから、朝、起きるのがつらい」などと、血圧との関係を指摘する向きもあるが、この点、本来、自分のクロノタイプを判断するには、これまでは精密な検査が必要だった。人それぞれがもつ体内時計の周期(サーカディアンリズム)を正確に測定するには、特殊かつ精密な施設や長期に及ぶ検査期間、負担の大きい採血法などが必要となり、睡眠医療の分野としても一般に考えられるほど手軽に検査できるわけではなかった。
ところが先頃、この分野でも、簡便に測定する手法が出てきた。それが皮膚細胞を用いて体内時計を測る睡眠リズム診断法だ(参照2)



体内時計の中枢(親時計と呼ぶ)は、間脳の一部にある視床下部の視交叉上核にある。その核内では、いくつもの時計遺伝子(時計蛋白と呼ぶ)が発現・分解をうながし、体内時計の周期をつくり出している。このうち親時計の周期を直接的に測定することは困難だが、時計蛋白は皮膚など抹消細胞にも備わっている。つまり、皮膚の切片から培養した細胞(線維芽細胞)を使ってその皮膚をもった個人の体内時計の機能を調べることができれば、より簡便に個人の体内時計の周期を測定できることになる。

この測定法では、24時間前後の体内時計の周期で働くことがしられているBmal1(ビーマルワン)という遺伝子に着目している。実験では、協力した人の寝起きの時刻などについて詳しい聞き取り調査を行い、8人の「夜型」と9人の「標準型」に分け、それぞれの皮膚を採取して周期を調べた。すると、夜型の人は体内時計の周期が長い傾向があることがわかった。
また、クロノタイプを表す指標と休日・フリーデイの睡眠習慣とは相関関係があり、平日の睡眠習慣とは相関していないこともわかった。結果としては、個人の皮膚細胞から個人が体質的にもつ生体リズムの特徴がわかり、そのリズムによっては個人の体質にマッチしない時間帯で就寝や起床が行われている人が多いかもしれない、としている。



朝型か夜型かについては、海外でもさまざまな研究が行われ、発表されている。「朝型の若者より夜型の若者のほうが成功する可能性が高い」とする研究もその一つ(参照3)。これは、10代の青少年1000人を対象としたスペインのマドリード大学の研究グループによる調査結果で、夜遅くまで活動する夜型人間のほうが、早寝早起きの朝型より「帰納推理能力」と「問題解決能力」が優秀であるとした。
帰納推理能力とは、一つの事実から普遍的な法則を推理する、いわゆる帰納的な能力のことで、高所得の職種のグループと関連性が高い能力とされる。問題解決能力は文字どおり問題を解決していく能力なので、この能力が高いほど成功する可能性が高いとされる。
また、ベルギー・リージェ大学の研究チームが朝型派と夜型派の起床後の脳の働きを観察したところ、起床後1時間半では両者に大きな違いは見られないが、起床から10時間半を経過すると、夜型のほうが、集中力が高く、生産性が高いことが明らかになったという(参照4)
そのほか、米国空軍職業研究所も「夜型のほうが幅広く思考する」という研究結果を発表し、ロンドン政経大学も2010年に、「夜型の知能が朝型より高い」という研究結果を発表している。
なお、先のマドリード大学の研究結果では、「学校の成績は、朝型のほうが夜型より8%高い」ということに対して、「それは、学校の日程が朝型中心に設計されているためだ」と推定しているそうだ。



日常の生活リズム、体内リズム、睡眠において「朝型がよいか、夜型がよいか」については、さまざまな意見があり、また、個人の体内時計に本来備わっているものなので善し悪しの問題ではないということもできる。ただし、その個人にとっては、自分のクロノタイプが適応できないような社会に放り込まれると、概日リズム睡眠障害をはじめとした睡眠障害に悩まされる人も出てくる可能性がないとはいえない。そのため、短絡的に朝型・夜型のどちらがよいかを判断するのではなく、個人の体質に合った睡眠時間をとり、その体質に合った睡眠プログラムを実施していくことの重要性が、このような論議にも垣間見られる。



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