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●ブルーライトと睡眠障害●

睡眠の質には、室温、寝具など、さまざまな外的な要因が影響を与える。光(照明)もその要因の一つで、なかでもLED照明やパソコン、スマートフォンなどのLEDディスプレーの普及・浸透に伴って、それらが放つ「ブルーライト」が睡眠に与える影響にも関心が高まっている。




ブルーライトとは、自然にある可視光線のなかで、最も強いエネルギーをもつ青色光のことだ(ブルーライト研究会・参照1)

人はおよそ400ナノメートルから780ナノメートルの波長の光を見ることができ、これを可視光線という(ちなみに400ナノメートルより短い波長の光が紫外線、780ナノメートルより長い波長の光が赤外線)。ブルーライトはこの可視光線のうち、380〜495ナノメートルの波長をもつ。可視光線のなかでは最も波長が短く、強いエネルギーをもっているとされ、その光は人間の目の角膜や水晶体では吸収されず、網膜まで到達する。単純にいうと、ブルーライトは、「網膜に到達する光のなかで、紫外線に最も近い、強いエネルギーをもつ光」ということになる。

このブルーライトが目に与える影響への関心が急速に高まってきた。屋内外を問わず、省エネ効果が高いといった理由で、多くの照明が蛍光灯からLEDになりつつあるからだ。加えて、パソコンやスマートフォンのバックライトに使われる光も、ブラウン管や冷陰極管を使う液晶ディスプレーからLEDディスプレーが主流になってきた。ブルーライトは自然にある青色光だが、照明などに多用され、今日、日本人は昼夜を分かたずブルーライトに包まれて暮らしているといっても過言ではない。

ちなみに、なぜLED照明にブルーライトが多く含まれるかは、LED照明の製造方法と関連する。現在、主流であるLED照明は、主に460ナノメートルの波長をもつ青いLEDを光源にして、黄色の蛍光色素を反応させて白い光を出している。この460ナノメートルの波長は、ブルーライトそのものの波長と合致する。つまりLED照明がブルーライトを多く放っているというより、「LED照明がブルーライトを光源としている」のである。

そして、このブルーライトには若い世代、若年層ほど影響を受けやすいといわれる。若い人ほど目の水晶体が透き通っているので網膜へ到達しやすく、ひいては網膜がダメージを受けやすく、目の疲れや痛みに影響を与えやすいからだ。



では、ブルーライトは睡眠にどのような影響を与えているのか。人間の目の網膜には、錐体と桿体と呼ばれる2つの視細胞が存在する。錐体は光の色を感知する役割を果たし、桿体は暗いところでも明暗を感知する役割を果たす。

ところが、10年ほど前、この2つの細胞に加え、新たな光受容体の存在が確認された。これを、メラノプシン含有ガングリオンセルという。この光受容体は、いわば「色や明暗など、見たものを脳に伝える細胞」ではなく、「光を感じたことを脳に伝える」機能がある。

この新たに確認された光受容体は、460ナノメートルという強いエネルギーをもつ光にのみ反応する。つまり、過度にブルーライトを受け続けると、この光受容体に影響を与え、体内リズム・概日リズムといわれるサーカディアンリズムに変調をきたし、そのことが睡眠にも影響を与えるというわけだ。

睡眠を誘発するホルモンであるメラトニンは、サーカディアンリズムのなかで午後9時頃から生成が増え、翌朝午前7時半頃には生成が止まる。その生成過程の夜間にブルーライトを過度に浴びると、メラトニン生成のサイクルに変調を来たし、それがサーカディアンリズムにも変調を来たし、睡眠障害を引き起こすことになるわけだ。

実際、杏林大学医学部精神神経科学教室の古賀良彦教授によると、就寝前に1時間スマートフォンを直に見た人と、ブルーライトを50%除去するレンズを掛けて同じ時間スマートフォンを見た人の睡眠の質を比べると、除去レンズを掛けて見た人のほうが「よく眠れた」「寝起きがよかった」「体や目の疲れがとれた」という意見が多かったという(参照2)

また、光の強さは光源からの距離の2乗に反比例するので、パソコン、スマートフォン、ゲーム機器など目を近づけて凝視するICT機器は、テレビ以上に注意が必要だ。前述のように、子どものほうがブルーライトの影響を受けやすいので、小さい頃からブルーライトを過度に受けてきた子どもの目や睡眠、全身への影響を心配する声もある。たとえば、就寝1時間前のメールチェックは、エスプレッソ2杯分の覚醒作用があるとの報告もある(エディンバラ睡眠センターの研究・参照3)



すでに国内では、7割の小学生がタブレットやゲーム機など携帯型電子機器を保有しているといわれる日本。そうした電子機器が放つブルーライトによって、サーカディアンリズムを整えるメラトニンというホルモンが抑制されることがわかってきた。

ブルーライトは人間の目に直接的な影響を与え、サーカディアンリズムの変調を伴って全身に影響を与える。全身への影響としては睡眠障害をはじめ、肥満、癌などへの影響も報告されている。ただし、まだ、医療としてのエビデンスが十分に揃っているとはいえない。

中学生・高校生など子どもの頃から夜遅くまでパソコンを眺めていたり、寝床でゲームをずっとやっていたり、眠くなるまでスマートフォンでメールチェックをしているようなことはないだろうか。このことにより、若い人でも眼がショボショボしてきたり、ピントが合わせにくくなったりする経験もあるだろう。

ブルーライトは空気中で散乱しやすく、目に映る像をボケやすくする。その像にピントを合わせるために脳にもストレスを与え、疲れやすくなる。そのとき、ブルーライトの影響に思いをめぐらせてほしい。



なお、ブルーライトはもともと自然にある可視光線であり、澄んだ空が青く見えるのもブルーライトによる。その効果・メリットも、たとえば学校の教室をLED照明にすれば、眠くなりにくくなり、集中力が増すともいえる。いわば体を覚醒させる働きがあるので、航空管制官、看護師、ドライバーなど、安全面への注意を要する仕事については、メリットがあるともいえる。

ただし、交代勤務が常態化した職場では、サーカディアンリズムが乱れ、癌の発症率が増えるなど、その問題も指摘されている(参照4)。功罪はまさに表裏一体のものであるということも理解しておきたい.



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